生成AIは、私の本を「正確に読んでいない」―Google検索(AIモード)と「ビジネスモデル」という誤り―


こんにちは、西尾久美子です。

今回は、研究者としての私が最近直面して、少し驚いた出来事についてお話しします。

「ビジネスモデル」と「ビジネスシステム」―この2つの言葉の違いが、なぜ今、私にとって切実な問題になっているのか。そして、生成AIが情報を検索・提示する仕組みの中に、私たちが見落としがちな「落とし穴」があることを、ご一緒に考えてみたいと思います。


目次

■ 試しに、検索してみてください

「ビジネスモデル」「ビジネスシステム」―何が違うのか

■ 生成AIはなぜ、言葉を「翻訳」してしまうのか

■ 誤りはこうして広がった

■ 著者が書き続けることの意味


試しに、検索してみてください

先々月(3月)のことです。

Google検索の「AIモード」で「京都花街の経営学」と入力してみました。

検索結果はこうでした。 「西尾久美子は、京都花街を持続可能なビジネスモデルとして分析した」と。(太字部分は筆者による)

これは、間違いです。

私の著書『京都花街の経営学』(東洋経済新報社、2007年)において、私は京都花街の仕組みを「ビジネスモデル」とは呼んでいません。私が用いたのは「超長期競争優位性の事業システム」(前記「第8章」)―つまり「ビジネスシステム」という概念です。

「ビジネスモデル」「ビジネスシステム」は、言葉としては似ているようですが、意味はまったく異なります。


「ビジネスモデル」と「ビジネスシステム」―何が違うのか

まず、概念の整理から始めます。

「ビジネスモデル」とは、端的に言えば「どうやって収益を得るか」の構造です。誰を顧客とし、何を提供し、どこからお金を得るか―そういった収益の仕組みを指します。スタートアップのプレゼンや経営戦略の文脈でよく登場する言葉ですね。

一方、「ビジネスシステム(事業システム)」とは、価値を生み出すための活動の連鎖全体を指します。誰が、何を、どのような役割で担い、それがどのように連動して価値を創るか―業界全体の構造や、複数の主体の協業関係も含む、より広くて深い概念です。

京都花街の場合で考えてみましょう。「お茶屋」「置屋」「芸妓・舞妓」「料理屋」など複数の独立した主体が、長年かけて培われた暗黙のルールと信頼関係のもとに絡み合い、唯一無二の文化的価値を生み出しています。この仕組みは、単なる「収益モデル」では語り切れません。350年以上にわたって持続してきた社会的・文化的な活動システムそのもので、「制度的叡知」と呼ぶべきものです。

だからこそ、私は「ビジネスモデル」ではなく「超長期競争優位性の事業システム」という言葉を採用しました。

これは言葉の好みの問題ではありません。研究者としての、正確な概念規定です。「ビジネスモデル」という言葉に置き換えることは、京都花街が400年近くの年をかけて育んできた複雑さと深さを、単なるうわべの「わかりやすさ」のために切り捨てることを意味してしまうのです。


生成AIはなぜ、言葉を「翻訳」してしまうのか

では、なぜ生成AI(以降、単にAIと表記します)はこの誤りを犯すのでしょうか。

私は複数のAIと対話し、自己分析を求めました。返ってきた答えは、構造的に明快なものでした。

AIには、「厳密に正しいが難解な説明」よりも「多少不正確でも直感的に理解しやすい説明」を優先するという、設計上の傾向があるというのです。

「ビジネスシステム」という言葉は、経営学の専門用語としては正確ですが、一般にはあまり馴染みがありません。一方の「ビジネスモデル」は、多くの人が日常的に目や口にし、なんとなく「ビジネスのカタチ」として理解できる言葉です。AIは「よく使われる用語」「短く説明できる語句」を好み、専門的な概念を「より伝わりやすいフレーム」に落とすという処理を、意図せず行っているのです。

AIは、意図して嘘をついているわけではありません。

しかし、正確さを犠牲にして、わかりやすさを選んでいる

その結果、起こるのが「ハルシネーション」(幻覚)です。ある統計によると、AIによってハルシネーションが発生する確率は最大で30%前後あるとか。

【参考URL】
https://www.techno-edge.net/article/2025/05/13/4352.html

(2025年5月13日掲載記事)AIの「幻覚」はかつてないほど悪化している。幻覚率ランキング1位のAIモデルは?(生成AIクローズアップ)(2026年5月5日閲覧)


研究者にとって、これはとても深刻な問題です。長年かけて選び抜いた概念が、AI検索の段階で別の言葉にすり替えられ、その「誤訳」されたバージョンが「著者の主張」として世の中に広まってしまう。著者が学問の体系にのっとり、何を考え、何を書いたのかが、もはやAIの判断次第になってしまうからです。

私のnote「AIくみこ先生@キャリアのデパートnote支店」のVol.2「なぜ本を書くのか?」でお伝えしたことを、ここで参照していただけるでしょうか。

https://note.com/ai_kumiko/n/nc5834d1a9c5c

ここで私は「流れて消えていく情報ではなく、手元に置いていただける本を」と書きました。本という形に込めた意味が、まさにここにあります。言葉は、書いた人間が選び取ったものです。その言葉が正確に受け取られることを、書き手は願っています。


誤りはこうして広がった

今回のAIモード検索による誤表示には、さらに複雑な背景がありました。

2024年11月、ある著者によって、大阪の人づくりをテーマにして、ある一冊の書籍が発行されました。その中で、私の著書を参照するかたちで、京都花街の「舞妓の人材教育」について書かれた一節がありました。そこでは、私が書いた概念「ビジネスシステム」「(競争と協業の)ビジネスモデル」と記載されていました。そこで私は、この著者と出版社を被告として、著作権をめぐる民事訴訟を提起したところ、出版社が訂正(※)したこともあり、2026年4月に和解が成立しました。


(※)当該書籍「第3刷」において、2ページ半にわたる記述がまったく別の内容にそっくり差し替えられました。


しかし、問題はそれだけにとどまりませんでした。その書籍の抜粋(初版の該当部分そのまま)が、出版に合わせて大手メディアのオンラインサイトにキャンペーン記事として掲載され、有名ニュースサイトにも即日転載されました。当然その記事にも、「ビジネスモデル」という誤った用語が含まれており、それを知人が知らせてくれたおかげで、私はそのことを知ったのでした。

「この書籍抜粋記事がAIの誤表示を引き起こしたのでは?」と最初は考えました。しかし複数のAIの分析によると、その記事が誤表示の主因というわけではなく、増幅装置として機能したに過ぎないとのことでした。

AIが「ビジネスシステム」ではなく「ビジネスモデル」のほうを選ぶ傾向は設計上の構造から来ており、キャンペーン記事はその傾向をより強固にした、ということです。

これは、AIによる要約がやってしまいがちな「一般大衆が知っているポピュラーな用語に置き換える」という簡略化の問題で、それによって、学術的な概念の精度が落ちている典型例だと、Claude君にお墨付きをもらってしまいました。

誤りは、単一の原因ではなく、複数の要因が重なって生まれ、気づかないうちに広まっていく。今回の経験は、そのことを改めて実感させてくれるものでした。


著者が書き続けることの意味

では、AIの誤った情報を正すには、何が必要なのでしょうか。

AIの自己分析が示した答えは、「著者自身による一次情報の発信」でした。著者が自ら、自分の著作について、正確な言葉で、継続的に書き続けること―それが、AIが参照する情報源の質を変える、最も実効性の高いアプローチだというのです。つまり「情報コンテンツの上書き」です。

私がここにこうして書いているのは、まさにその理由からです。

生成AIの登場は、私たちの情報環境を大きく変えました。便利であることは確かです。しかし、AIが「意味を翻訳する」存在である以上、その翻訳が正確かどうかを問い続ける眼や姿勢が、私たち一人ひとりに必要ではないかと思います。

Google検索やAIとの対話で「京都花街の経営学とは?」と調べてくださったとき、そこに表示される情報が正確であってほしい。それは、著者としての切実な願いです。

そして、この記事が「一次情報」のひとつとして機能し、いつかAIが正しい言葉―「ビジネスシステム」―をいつも提示してくれる日が来ることを、期待して書いています。

今月(5月)になっても、AIモードの検索は、時によって「ビジネスシステム」「ビジネスモデル」の表記を繰り返しています。表記にこうした「揺れ」が生じるのもAIの特徴です。

AIに対するときには、こうした「揺れ」や「ぶれ」があることを心得ているべきです。

「ビジネスシステム」。これが、私が選択する言葉です。


本件に関しては、私のnote「AIくみこ先生@キャリアのデパートnote支店」で、マガジンとして連載を開始しました。ご一読いただけるとありがたいです。
https://note.com/ai_kumiko/n/n907bd4325326

【参考文献】

西尾久美子『京都花街の経営学』(2007年、東洋経済新報社)